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新潟大学人文学部教授 苅部 恒徳 最初に英語の語彙(vocabulary)について概観しましょう。皆さんは英語の語数はどのくらいあると思いますか?おおざっぱに言い当ててみてください。驚くなかれ,60万語くらいではないかと言われています。たとえば,世界最大最良の英語事典として知られる『オックスフォード英語辞典』,略してOEDとして知られている辞典の第2版(1989年)によりますと,収録語数の総計は616,500語となっています(xxiii)。もちろんこの語数は(1)appleやuniversalのような単一語ばかりではなく,(2)afternoon, forget-me-not, Adam's apple のような複合語,(3)anti-のような接頭語や-nessのような接尾語からできた派生語,それらを合わせた主見出し語は290,500語で全体の約半数です。残りの半数は主見出し語の中に追い込まれた,この辞書ではボールドタイプで印刷された,複合語や連結語や派生徒や句からなっています。ここで注意しなければならないのは,約60万語といっても,廃語・古語・方言・専門用語も一定の制限のもとで含めて過去から現在までのものを収録したということで,現用に限ればずっと少なくなると思います。 英語語彙の中身はどうなっているのでしょうか。上に述べた語の形式による分類は中身を知るためにはあまり興味がもてません。英語語彙の特徴は外来語=借入語が多いということですから,英語の語の出身調べが面白いと思います。まず本来語と外来語に分けてみます。本来語とは英語の場合,アングロ−サクソン人が5世紀半ばにイングランドに侵入・定住してもたらした西ゲルマン語が発達した7世紀から11世紀までの古英語(Old English)に由来するもので,多くは1,000年以上の歴史をもった英語生え抜きの語のことです。古英語は約30,000語あったといわれていますが,現在まで残っているものは約20,000語のようです。あとは廃語となったわけです。 本来語と借入語の分布に出身別調べをした結果がパーセントで示されています。(『現代英語学辞典』(成美堂,1973)p.993)。それによりますと本来語14%,ラテン語36%,フランス語21%,ギリシャ語4.5%,スカンジナビア語2%,スペイン語2%,イタリア語1%,そのほか13.5%,出身不明語6%となっています。ここでいう外来語は英語に同化した借入語(loan words)のことです。この14万語はこの時点の性格からいってアメリカの大学生が学習に必要な現用語数でしょうが,本来語がしめる割合が14%ということは2万語弱ということになります。このように英語の語彙は外来語が占める割合がどの言語よりも高いのが一大特徴です。 しかし,語意の問題は分布だけではありません。言語は実際に用いられるときの頻度数が重要なことは言うまでもありません。先ほどの『現代英語学辞典』にはF.O.Emersonの調べた過去の有名な作品や作家の,本来語と外来語の出現率が出ています。それによりますと,Authorized Version of the Bible(1611)は本来語94%・外来語6%,Shakespeareは本来語90%・外来語10%,Miltonは本来語81%・外来語19%,Gibsonは本来語70%・外来語30%となっており,分布とは反比例して本来語の頻度数が高いのですが,時代が下がるにつれて外来語の語の費用頻度が高くなる傾向があります。
ここでもう一度OEDに戻ってその第1巻の巻頭に掲げてある語彙の種目と関連を示した有名な図解をみてみましょう。 先にお話した本来語と借入語のおおよその区別がつくという感覚は英語を聞いたり,読んだりするときにその文体の特徴を知る上で大事です。ということは英語には同義語が多くあり,だいたい同じ意味のことを本来語を多用しても,借入語を多用しても表現できるわけです。こうした文体の問題は難しいのでさておくとして、ここでは本来語と借入語を組合わせて用いる単語の例を見ましょう。英語は本来語でその形容詞は借入語という組合わせです。どんな例がありますか。そう,king: royal, regal などです。king はたぶん 「血縁集団である部族の子孫(の代表)」から「王」といった本来語はゲルマン語で同族語であり,ドイツ語 koning,オランダ語 koning,北欧語 konungr です。しかし,その形容詞には本来語の kingly があることはありますが「王らしい」というやや比喩的な意味ですので,ふつうはフランス語からきた royal かそのもとのラテン語からきた regal です。regal の名詞は rex で印欧基語 *reg- にさかのぼり「導く,支配する」です。ついでに言えば royal とregal は異なる言語から来た同語源語ですから姉妹語(doublet)といいます。ここで宿題です。できたら king: royal, regal の類例を探してきてください。ヒントは親族語などがわかりやすいでしょう。 さて次にやはり本来語と借入語の関係で食肉文化に関するこれもよく知られた例を見てみましょう。「牛肉」は beef ですが動物は ox (cow, bull)です。ox は古英語からある本来語ですが,beef は1300年頃のフランス語からの借入語です。「豚肉」の pork も1300年頃のフランス人に支配され,支配者の文化が浸透してゆき,料理のメニューにこうした食肉名が書かれたのでしょうか。あとはまた宿題です。 calf, sheep, deer の食肉名を調べてください。今すぐ答えられる方もおいでのようですが,次回にお願いします。 この講座のパンフレットに shirt と skirt の例を挙げてましたので一言ふれます。この2語は同語源の「姉妹語」です。shirt は古英語ですから本来語です。skirt はどこの言語でしょうか。北欧語からの借入語です。「姉妹語」の存在理由はいくつかあるでしょうが,意味の違いを持たせることもその一つでしょう。どちらもゲルマン基語で「短い衣服」です。実は short 「短い」(cf. shorts)が大本です。北欧借入語の見分け方は簡単です。古英語の sh の音が北欧語では sk の音で現れるからで,skald 「北欧の吟遊詩人」,ski, skill, skin, skip, skoal「乾杯」, skull, sky などが北欧語起源です。こんな風にこの先時間の許す限り,いろいろなテーマについて英語の語源遊びを続けたいと思います。皆さんも英単語についての質問を用意しておいてください。 |