5

 

その晩、六画塔にお世話になった。
例の、この世界に迷い込んだ因縁深い扉をあけ、
彼等は黙って真っ直ぐに本棚へと向った。

驚くべきことに、本棚がからくり扉となっており、
重苦しいキリキリと軋む音を立てながら廻すと、細い階段が下へと、
螺旋を描きながらかなり急な角度で続いていた。



外から見る限り、ぽつんと一軒建ちはだかる六画塔に
このような地下が存在するなどとは、およそ想像もつかない。



20段ほど降りただろうか、狭い階段の踊り場に、
純鉄製と思われる西洋鎧が待ち受けていた。
不気味さにたじろぎながらも立ち止まり、
思わず鎧の顔面部、目の辺りを開けてみた。


---   黒い空洞だった。


「・・誰も入ってないな、当たり前か」

などと独り言を呟きながら、
慌てて老婆と青年を追って階段を進んだ。




階段を降りると赤い絨毯が敷かれた廊下があり、
廊下の両側には何部屋かが存在している。


幸い、そのうちの一室から廊下に向って、
明かりが三角に漏れていたため、彼等が居る部屋が分かった。
おそるおそる、だが慌てて部屋に身を投じた。


Lの字に置かれたベルベット地のソファーと、暖炉、骨董品、
その隣に揺り椅子が一つ、老婆が穏やかな表情で座っていた。
明かりの元で見ると、老婆はネグリジェを纏い、銀の髪留めをし、
元の世界の昔であれば、西洋被れと世に言われる洋装であり、
深く刻まれた皺と、窪んだ眼差しにさえ、落ち着いた品格があった。


「気兼ねせずに、休まれたらよろしい」


ゆっくりとそう言い、目を細めて微笑む姿は、
細い線とは裏腹に、人を安心させる力さえ感じた。



やがて若者がグラスを3つにウィスキーと氷、
さまざまなドライフルーツを持って現れた。







---   その時はまだ、実際、不可解に思うところまで気がまわらなかった 
      六角塔には、暖炉があるのに、煙突がなかったのだ   ---




--- continued ---

 

return to index